冨田明宏 責任編集メールマガジン 『パトス・ハメ』
No.0002-1 / 2009年1月19日 発行

INDEX
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1. anNina 新作 natal を語るインタビュー(前編) text: 冨田明宏
2. 対談連載 DJ TECHNORCH×冨田明宏『同人音楽』第1回 text: 冨田明宏
3. 今号のパトス盤 - PICK UP DISC! - text: 冨田明宏
4. 犬が読むコラム - 責任編集後記的な何か - text: 冨田明宏
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

1. anNina 新作 natal を語るインタビュー(後編) text:冨田明宏

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

――「natal」制作を終えて、今の率直な心境は?

Annabel:
う〜ん……正直、ちょっと寂しい感じがあるかもなぁ。

inazawa:
そうそう。それは僕も感じています。

――と、言うと?

inazawa:
約1年もの間、この作品の制作に取り組んでいたからですね。特に後半は、ずーっと密度の濃い状態が続いていたから、急に解放された感じがして。それが、なんというか、一言でいえば寂しいという感じなんだろうなと。勿論、喪失感よりも得たものの方がすごく大きいので、「さあ、次はどうしようか?」という楽しみもありますね。

――もう、次の構想に?

Annabel:
うん。私としては、割とそっちに向いているかもしれない。早く新作を作りたいです。

inazawa:
レーベルとかリリースの兼ね合いとか、いろいろあるにはあるんですけどね。勝手にでもいいなら今すぐにでも作り出したいというのが、今の心境だと思います。

――例えば、次はフルアルバムとか?

inazawa:
視野に入れてはいるんですけど(笑)。ただ、アルバムを出すなら、それがアルバムの形である必然性がなければ、アルバムとしての完成度は得られない、と僕は考えてしまう性格なので、フルアルバムとなるとそれなりに大変だなぁと。

――方向性的には、やはりコンセプチュアルなものということですよね。

inazawa:
コンセプトといっても、外来的な、たとえば以前やったACIみたいに「色をテーマにする」とか、そういうものにはならないと思うんですよ。出来上がったばかりのユニットなので、それだとちょっと日和った感じになっちゃう。今はまだ、ユニットとしての必然性を注意深く見出しながら、理由付けをしていく事がコンセプトの土台になると思います。

Annabel:
そう考えると、フルアルバム出すなら「natal」の2倍以上の時間がかかりそうですけどね(苦笑)。

inazawa:
「natal」で学んだことを生かして、なんとか2倍以上はかけずに済む方向で(笑)

――anNina の特殊性の一つとして、意味性を作品という結果から求め過ぎないところが挙げられると思うんですよ。事前に、音楽が鳴らされている意味がかなり明確に決まっているというか。

inazawa:
そうですね……とりあえず今風で格好良ければアリ、そこで作品性が満たされた、という感じの楽曲制作ではないです。勿論それはそれでアリなんですけど、anNina で作品を作るにあたっては、作品性をジャンルに預けない、つまりジャンルの文脈やトレンドを作品の前提にしない、というのが基本的にはあるかなと思います。

普段あまり音楽を聴かないので、自分の中にそういう指針があまり持てないというのもありますが(笑)。なので、他にコンセプトやイメージがあって、それを純粋に音にしようとする流れですね。惰性で4つ打ちとか、安心感のある循環コードとか、そういう部分は無いと思います。

――そういったスタンスゆえに生まれ出た、特殊な作品だと思うんですよ。この「natal」は。
今回は、ある程度「natal」を聴いた人に向けたインタビューにしたいので、各曲解説をお願いしたいんです。
早速1曲目ですが、「inicial」について。

inazawa:
はじめは、「子午線」を頭に持ってきたいと考えていたんですよ。そうしたら、Annabel さんが渋って(笑)。

Annabel:
うん、渋りました。「それは、ちょっと……」みたいな。

inazawa:
あれ、なんでダメだったんだっけ?

Annabel:
「子午線」1曲目はないですよ!inazawa さんの中で「子午線」はかなりポップな楽曲という認識ですけど、私はそうは思わなかったんです。アルバムの一曲目って、試聴機で聴いてもらうことを考えるとメチャメチャ大事じゃないですか?

inazawa:
ということで、ワンクッション置くことになったんです(笑)。ただ「inicial」は、ミニアルバムの全体像が見えてきてから作った曲なので、導入部としての効果を確認しながら調整していきました。

風鈴の音が入っているんですけど、あれは僕の部屋でいつもぶらさがってる風鈴で、音楽作家の ESTi さんが韓国からのおみやげにプレゼントしてくれたお気に入りです。風鈴って、音の出る間合いや音自体に、哀愁がありますよね。“1/fゆらぎ”的な。
そういうものが好きで……自分の作る音でもそれを求めるというか、音が鳴る状態と、鳴らない状態があるものが好きなんですよね。

――そして「子午線」ですが、どのように生まれた楽曲ですか?

Annabel:
これは詞先で生まれた曲ですね。私がアルゼンチンに帰郷していた時に、メモに取っていたようなことが元になっています。

――歌詞の内容もそうですが、この「natal」象徴する楽曲のひとつですよね。

Annabel:
私がアルゼンチン生まれだということを知っている人が聴けば、モロにそういう内容の歌だとは思うんです。でも、そこを意識せずに聴いても成立する曲になるように、気を付けながらこの歌詞は書きました。

inazawa:
内側から出てきたものが、パーソナルでないところまで昇華されていた時に、作品になるのかなと思います。サウンド面では一応ライブ・パフォーマンスを意識したところがあって、ひとつは Annabel さんが、歌を歌う以外の部分で曲に参加できる要素を作る、ということでした。

それでエフェクターのカオスパッドや、ディレイ・マシーンのヘッドラッシュなんかを仕入れて、ピアノをリアルタイムでいじるようなことをいろいろと試してみたんです。リコーダーを吹いてヘッドラッシュに通した音も入ってますね。ライブでは、Annabel さんが歌いながらカオスパッドをいじるようなパフォーマンスになるんだろうな、と。

――「うわのそら」は、いかがですか?

Annabel:
この曲はすごくすんなりできちゃったので、そこまで語ることもなかったような……。

inazawa:
Annabel さんは binaria でもエレクトロニカを志向しているので、僕が持っている志向性と接近させてみたら?という発想で生まれた曲ですね。作曲もAnnabel さんなのですが、彼女が入れてくれた仮歌が良かったから、それをそのまま採用したんです。

Annabel:
ただ、歌モノというイメージではメロディを作っていないので、ライブでは歌えないだろうなって(笑)。サビのところとか、私のボーカルで掛け合いがありますからね。あ!でも inazawa さんと掛け合えで歌えばいいんじゃないですか?

inazawa:
え、え〜……。ライブだけのパフォーマンスってことでアレンジ変えて対処しようよ(笑)いや、ちょっと難しいかな…。

――ですね(笑)。僕の中では、次の「肥えた太陽」がアルバムのハイライトだと思っているのですが。

inazawa:
それはなんというか、ライターさんらしい鋭い見方ですね(笑)。この曲はちょっと冒険したというか、最後までいろいろと心配な曲でした。Annabel さんが最後まで、「この曲、本当に入れるんですか?」と聞いてきましたから(笑)

Annabel:
「これで私が批判されたなら inazawa さんのせいですよ!」って(笑)

――いやいや!むしろファン増えますって!この曲があることで、anNina は頭の固い優等生っぽいユニットとは違うと、明言したようなものですよ。Annabel さんの中では、こういう危機迫るような演出をボーカリゼイションで聴かせる曲に、抵抗はありましたか?

Annabel:
この曲は、要求されたことが多かったんですよ。この曲を作る段階で、私の頭の中に描いていたanNina像に、こんなに激しい楽曲イメージはなかったですし。「こんなことできないわ!」みたいな、アイドル的スタンスで inazawa さんに臨んだんですけど、一歩も引いてくれなくて(笑)。結果的には、やって良かったと思っていますよ。

inazawa:
もしどうしても「無理!」と言われていたなら、波形編集でもっと前衛的なものになっていた可能性もありますけどね。

――コラージュも面白そうですね。

inazawa:
それはそれでアリですよね。でも、Annabelさんがパフォーマンスで結果を出してくれたので、それでいきたいと思いましたね。

――最初から、こういった前衛的アプローチもanNinaでは志向していこうと思われていたのですか?

inazawa:
そうですね。僕はもちろん、彼女もこの手の音楽を聴くのは好きみたいなので。

――あの演劇的な歌唱は、どのような着想から?

Annabel:
それこそ、inazawa さんには「演技派女優になれ!」と言われましたから(笑)

inazawa:
僕のイメージでは、極端な例として美輪明宏の「ヨイトマケの唄」みたいな奔放さがあったので、結構無茶なこと言ってましたね(笑)

――あー、なるほど!この「肥えた太陽」というタイトルが意味するものって……?

inazawa:
あまりネタばらしになり過ぎるのもなんですが、太陽はプライドのことです。プライドが肥大しすぎて身動きの取れなくなった人のことをテーマにしています。その部分を念頭に入れてこの曲を聴いてもらうと、色々と納得があるのではないかなぁと思います。

そういう、ネガティヴな要素や病んだ部分は、この作品にちらほら出てきます。「肥えた太陽」は、ある意味メッセージソングと言えるかも。好き嫌いが別れるような曲ですけど、今回が初アルバムですから、それくらいのものを試してみたかったんですよね。

――興味深いお話です。そして、「目蓋」です。

Annabel:
この曲はですね、2人で酔っ払いながら作ったんですよ(苦笑)。そもそもなんであんなことになったのかというと、お互いお酒が好きだというのもあるのですが、「酩酊した状態で曲を作ったら面白いんじゃないか」ということになりまして。そこでお互い、それぞれの自宅で潰れるまでお酒を飲んで、その時に浮かんだイメージで作詞と作曲をしたという。

inazawa:
周りの音よりも自分の鼓動が大きく聞こえたり、足をぶつけた時の音がやけに響いて聞こえたり、酔っ払ってグダグダな状況を客観的にメモに書き留めて、音に置き換えて曲にしていきました。

Annabel:
結果的に私は本当に潰れたので、メモに書き留めてなんかいられなかったですけどね。ずっとトイレの前でグタ〜としていましたから(笑)。だからドリーミィーな要素もありつつ、少し悪夢的な要素も出ていると思うんですよ。

inazawa:
変な話、この曲はかなりの覚悟を持って臨みました(笑)。

――「曲が書けねぇ!」と言って酒を飲むアーティストはたくさん知っていますけど、「曲を書こう!」と言って酒を飲む例はあまり聴いたことがない(笑)
そして「シメオンの海」という曲ですが。

Annabel:
日本の童話的なものをイメージして書いてみようと思ったんです。たとえば、小川未明のような。日本の昔話に“死者が海から上がってきて会いに来る”というお話が結構多いのですが、そういったものが歌詞の作り方の着想になっています。

inazawa:
大まかなビジュアルイメージとしては、世界の果てのような崖と海なんですよね。もともと、展開のある物語的な曲が作りたいといって作った曲なので、歌詞に1番や2番というものはなく、音もストリングスを導入して展開が大仰なものにしてあります。

――そしてラストの「対象a」のリミックスですが、この(adonde vuelvo)は何と読めば?

Annabel:
「アドンデ・ヴエルヴォ」です。意味は、「帰る場所」ですね。なので、「natal(故郷)」とすごく近い意味を持っているんですよ。

inazawa:
実はミニアルバムのタイトル候補だったんですよ。僕はリミックスに(〜〜)と名付けるのが好きで、ここにアルバムタイトルと同じものを入れることで、アルバムの中の1曲として明確になる、とも考えていたんですが、結果的にアルバムタイトルの方は「natal」にしようということになって。でも adonde vuelvo という響きがやっぱり格好良かったので、リミックスの方はそっちを残した、という感じですね。

――そして衝撃的なことに、原曲のリズム 6/8 が、なんと 5/8 になっていて。

inazawa:
1拍削ってみたのは、まず単純に僕が気持ち良かったからなのですが(笑)もともと「回り続ける」という要素が「対象a」にはあったので、1拍削るとそのスピードが増して、目まぐるしくて休めないイメージです。

――原曲のイメージで聴いていると、ものすごく不安な気持ちになるんですよ。
倒錯してくるというか。

Annabel:
ですよね。すごく不安になってくる。

inazawa:
「対象a」を好きでいてくれる人はすごく多いのですが、リミックスでわざわざ原曲に近いものや、超えるものを僕が提示しても意味がないと思ったんです。だったら、新しいアプローチで世界を表現しておこうと。

――歌、本当に大変だったと思うんですよ。

Annabel:
難しかったです。原曲のリズムに慣れちゃっていましたから。正直、いきなり1拍抜かれても「意味が分からない!」みたいな感じでしたよね(笑)。最終的には、すごく気持ちよく感じましたけど。一応パッケージ化できるレベルまで歌うことができるようになったので、良かったです。

inazawa:
「子午線」も変拍子だったのですが、この作品で変拍子の気持ち良さに気付いてもらえたら嬉しいですね(笑)。

――まったくです。僕も、“変拍子”ってだけで過剰に反応してしまう性癖を持ってますから(笑)。そして、2月4日にはタワーレコード渋谷店でインストア・イベントをやられるということで。そこではじめて anNina を生で見る人も多いと思うんですよ。

inazawa:
ですよね。だから、僕たちとしてもあまり中途半端なことは出来ないなぁという感じなのですけど、ただ、インスト・イベントという限られた環境なので、どこまでできるかな……。可能な限り納得のいく音は出したいですね。

――2009年の anNina ですが、以降の露出はいかがですか?

Annabel:
2月25日に発売されるOVA『ひぐらしのなく頃に礼』のエンディング・テーマ「まなざし」を担当したので、そのシングルもそう遠くない時期に発売されるかと思います。

inazawa:
最新情報は、新しくなった公式ブログで随時お報せしていくので、こまめにチェックしていただけるとありがたいです。

――あと、個人的な興味としてもお伺いしたいのですが、お2人の個別の活動は、どんな塩梅ですか?

Annabel:
binariaの音源が現在すべて廃盤なので、それをすべて纏めて、更に新曲を追加したフルアルバムを今準備中です。あと、Annabelとしてもソロアルバムを今制作中です。

――それは楽しみですね!そしてinazawaさんですが、「berpop」の新しいやつはいつ出るんですか?

inazawa:
えー、これから頑張って作ろうかと思っているところです(笑)!

Annabel:
もう言っちゃいましょうよ!「2009年に出します!」って!

inazawa:
えー!いやでも、(中略)……でも、anNinaの活動を通じて自分のソロにフィードバック出来ることはたくさんあったので、それを反映させた最善の形で、発表したいですね。僕も、いい加減出したいです(笑)。

 

■ anNina official site
http://www.voltagenation.com/annina/

■ natal / anNina 
 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
音楽ライター冨田明宏
責任編集メールマガジン「パトス・ハメ」

メールマガジンの登録・解除
【登録】subscribe@voltagenation.com
【解除】unsubscribe@voltagenation.com
※件名、本文に何も書かずにメールをお送りください。

ご意見やご感想はこちら
magazine@voltagenation.com

発行 : Voltage of Imagination
http://www.voltagenation.com/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright(C) Voltage of Imagination. All rights reserved.