冨田明宏 責任編集メールマガジン 『パトス・ハメ』
No.0002-3 / 2009年1月19日 発行
INDEX
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1. anNina 新作 natal を語るインタビュー(前編) text: 冨田明宏
2. 対談連載 DJ TECHNORCH×冨田明宏『同人音楽』第1回 text: 冨田明宏
3. 今号のパトス盤 - PICK UP DISC! - text: 冨田明宏
4. 犬が読むコラム - 責任編集後記的な何か - text: 冨田明宏
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3. 今号のパトス盤 - PICK UP DISC! - text: 冨田明宏
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■ ドラムンベース × ラウドロックの徹底的な破壊力!
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THE QEMISTS / JOIN THE Q
発売日 : 2009年01月21日
型番 : BRC205LTD
発売元 : Ninja Tune
販売元 : BEAT RECORDS

2008年はペンデュラムがメジャー・デビュー・アルバム『In Silico』で、というか「Granite」1曲の破壊力でドラムンベース・ブームを再燃させ、ラウドロック・シーンでも要注意バンドとしてマークされるほど売れまくったわけだが(全英ナショナル・チャート2位)、実は彼ら以上にラウドロッキンでドラムンムンなバンドが存在する。それがこのザ・ケミスツだ。
名門レーベル【ニンジャチューン】の秘蔵っ子という触れ込みだが、つまりはコールドカットのお墨付きを得たロックバンドだということ。サウンドは彼らが影響を公言しているレッド・ホット・チリペッパーズのファンクネス漲るギター・サウンドに、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン由来のタテノリ・ザクザク・ギターも導入。そしてプロディジーやゴールディーのマッシヴなブレイクビーツで引っ掻きまわしたような、まるで嘘みたいな音楽性。
彼らは自分たちを“ロックバンドだ”と公言しているとおり、サウンド、リズムのスイッチングが巧みで、1曲の中に一体何個のサウンドとリズム・パターンが組み込まれているのかと、数え上げていくだけでも面白い。昨年は英国新進気鋭のバンド、ハドーケン!がプロディジー・サウンドを復権させ、結果的に今年のプロディジー復活をアシストしたような動きがあったけど、このザ・ケミスツはその先、“プロディジー以降”を強烈に臭わせている。ゲスト・ボーカルにマイク・パットンらが参加と、好きモノたちを喜ばせる要素もてんこもりです。
■ 話題騒然。日本のロック・シーンを揺るがす思春期少女ロック
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相対性理論 / ハイファイ新書
発売日 : 2009年01月07日
型番 : MRIR1233
発売元 : みらいrecords
販売元 : みらいrecords

最高の音楽と出会ってしまった、と思ったとき。誰かに教えたいけど、有名になって欲しくないと願ってしまう勝手な独占欲。できれば、最初の発見者になりたかったと願う、後悔にも似た念も湧いてくる。もっと酷くなると、こいつらを俺以外の誰かが聴いていると思うだけで穏やかな気持ちではいられない、なんてことはさすがにないか。しかし今、それくらいの情熱でもって各方面で語られているのが、この相対性理論というバンドだ。
日本のロックにアンテナを張っている人なら、このバンド名と「LOVEずっきゅん」という曲名、もしくは『シフォン主義』というアルバム・タイトルくらいは耳にしているはず。あるいは、知ってはいるけど“どうせ椎名林檎チルドレンだろ?”という誤解したフィルターを通して見ている人もいるかもしれない。
ファースト・ミニアルバム『シフォン主義』は2007年5月に発売されたのだが、以降は「ねえ、相対性理論って知ってる?」と、口コミで人気が伝播。現在ではネクスト・ブレイクの筆頭株として注目を集めている。
さて、そんな彼女たちが初のフルアルバム『ハイファイ新書』をドロップした。前作と同様、歌謡曲とシティポップとアニソンとプログレが溶け合い、無垢なようでスレた表情を見せる少女性と共に拡散していくような音楽性なのだが、サウンドの質感や印象がずいぶんと変わった。
前作はエッジの立ったポスト・パンクな側面が強調されていたが、本作ではより滑らかなでポップな色味が増している。しかし「テレ東」、「地獄先生」、「ふしぎデカルト」、「学級崩壊」などの曲名からも解るとおり言語感覚は冴えわたり、情報過多だが知識欲はなく、性欲と体力はあるが未来がない、と諦観する世代の思考を映し出すような無常観が漂っている。しかもボーカルがアニメ声なのよ。ああ、心がヒリヒリと痛みます。今、ロックから同時代的なものを感じ取りたければ、ぜひ本作を聴いてみて。
■ 80年前のシアター・オルガンが誘う、美しき郷愁のBGM。
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ETHAN ROSE / OAKS
発売日 : 2008年12月17日
型番 : HEADZ125
発売元 : HEADZ
販売元 : アートユニオン

まったく新しいアンビエント・ミュージックの誕生です。ポスト・ロック・バンド、スモール・セイルズのフロントマンであり、ソロ・アーティストとしてもガス・ヴァン・サント監督作品『パラノイドパーク』でファースト・アルバム『シーリング・ソング』収録曲が使用されるなど、多方面から注目を集めてきたイーサン・ローズ。
そんな彼の最新アルバムである本作は、彼の地元であるオレゴン州ポートランドにある古いローラースケート場に設置された、1926年生のシアター・アルガンの音を素材に制作されている。彼は足しげくそのローラースケート場に通いオルガンの音をサンプリング。最新のテクノロジーでその音を様々な形に作り変えて組み上げ、ここに1枚の作品として結実させた。
特定のメロディやビートは一切なく、温もりのある音の粒子や微量なノイズの細かな連なりが、穏やかに流れ躍動する。どこまでも優しく、美しく、豊かな想像力を喚起させ続けるこのサウンドは、まるで祖母が大切にしていたオルゴールを見つけたときのような、どこか懐かしく、ほのかな幸福感で包んでくれる。彼のアンビエント作品が気になった方には、カリヨン(複数のベルを自動再生する装置)を使用し制作された前作『Spinning Pieces』もお勧めです。
■ 新しく生まれ変わった、OST不朽のマスターピース
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OST / GHOST IN THE SHELL-攻殻機動隊2.0 ORIGINAL SOUNDTRACK
Blu-rayディスク付 SHM-CD仕様 [Limited Edition]
発売日 : 2008年12月17日
型番 : BVCH47003/4
発売元 : BMG JAPAN
販売元 : BMG JAPAN

プレイヤーにCDを入れて再生ボタンを押した、その刹那。鈴の音、ブルガリアンボイスの倍音、太鼓の鼓動がスピーカーを伝って空気を振動させ、空間を満たし、雑然とした仕事部屋を一瞬にして荘厳な異空間に変えてしまった。音を聴くことの素晴らしさと、逆説的な意味で、音をコントロールすることの難しさを痛感させられる。それほどの説得力が、「謡I-Making of Cyborg(2.0ver.)」にはある。
いや、もう、説得力なんて生易しいもんじゃないのかもしれない。ズバリ言ってしまえば、感動である。音楽で感動したいという人がいるなら、この作品はひとつの答えになる。人種、文化、音楽ジャンルなどを超越した感動だ。川井憲次、恐るべし。
1995年に生まれた歴史的名作『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』が、2008年夏に『2.0』にバージョンアップ。それに伴い、音楽も大幅にリニューアルされた。元々ドルビーSR方式で2chだったサウンドを5.1chにしよう、という話だったらしいのだが、せっかくならもっと音を厚くしようということで、新規で音をダビング。結果、厚み、重みがケタ外れのレベルまで増幅された。
CDには高音質メディアSHM-CDが採用されており、通常のプレイヤーでも素晴らしい音質で再生が可能。これは良いオーディオが欲しくなります。同梱のブルーレイにはオリジナル・ミュージック・トレーラー(楽曲:謡III-Reincarnation2.0 Ver.)が収録されており、断然この限定盤がお勧め。
■ 止まらない脳汁!狂気とポップの爆裂エレクトロ・ミクスチャー!
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BOGULTA / A HAPPY NEW ANARCHY
発売日 : 2008年01月23日
型番 : FRAGMENT901
発売元 : De-fragment
販売元 : BRIDGE INC

最近はこればっかり聴いています。このボガルタ、レディオヘッドやジャスティス、バトルズと共演歴のある日本のバンドなのだが、それだけ聞いたらどんなバンドを想像するだろうか?
叙情的で実験的で、昂揚感のあるエレクトロに、最新鋭のオルタナ・サウンドを搭載したマスロック・バンド? ある意味、それで間違っていない。むしろその全部の要素が入っている。そこに土着的なジャパニーズの狂暴性をプラスして、オレンジレンジにも負けないポップでキャッチーなメロディセンスもプラスされている、と言ったら驚くだろうか?それでは大いに驚いて頂きたい。ボガルタはまさに、そういうバンドである。
ボアダムズやルインズ以降を象徴する音楽シーン“関西ゼロ世代”に登場した、ズイノシンという破壊的で笑えるバンドがかつて存在したのだが、そのドラマーだった砂十島NANIと、ベースとアートワーク全般を担当するヨシカワショウゴによるユニットがこのボガルタである。
雪崩のようなグルーヴと洪水のような電子音が、先がまったく読めない変拍子の連続の中で高速展開されていく。しかも楽しげに歌いまくり!すでに海外では、9万人以上の観客を動員するソナー・フェス(@スペイン・バルセロナ)出場を果たした。早く日本も、彼らに追い付いてほしいものです。
■ J-POPとアイドル歌謡、アニソンの垣根が溶解した作品
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中川翔子 / MAGIC TIME
発売日 : 2009年01月01日
型番 : SRCL6932
発売元 : SMR
販売元 : ソニー・ミュージックエンタテインメント

“中川翔子”というアイコンは何をもたらし、何を成し遂げたのだろうか?現在最もポピュラリティーのある人気アイドルのひとりであり、ハンパではないくらいにオタクでもある彼女。筆者は彼女に対して何度かインタビューしたことがあるが、そのディープなオタク雑学の知識量と言ったら凄さまじいもので、一朝一夕の知識ではないことは数分話しただけでも容易に知れた。
今までも“アイドルでオタク”という存在は少なくなかったわけだが、彼女が抜きん出た理由は恐らく、どちらの属性にも所属することができるフットワークの軽さではなく、素で好きなことを追求した結果だからだと思う。だから、どちらでも中途半端な感じがしない。どちらの世界でもネイティヴに会話ができる、いわばバイリンガルだ。
しかし彼女の場合、好きなものの参照先が80年代や90年代がメインなので、現在のオタクとは若干の差異があるのだが、彼女のような存在がもっと増えれば、オタク・カルチャーに革命が起きるのでは?と考えた人も多いと思う。しかし現実はそんな甘いものではなく、彼女は超異例の、特別な存在として処理されているのが現状だろう。果たして、それで良いのだろうか?というようなことを、このセカンド・アルバムを聴きながら考えた。
ここに収録されている楽曲は、松本隆や筒美京平のアイドル歌謡成分と、近藤ひさしやnishi-kenのJ-POP成分、そして黒須克彦、meg rockのアニソン成分が、美しい整合性の中で共存し、現在進行形の感覚で違和感なく融合している。
それぞれを繋ぎとめているものは“中川翔子”というアイコンであり、彼女オリジナルの記号性だ。両方の世界でトップを走っていなければ、散漫になり説得力に欠け、成立しにくい作品と言えるだろう。なにはともあれ、完成度の高いポップ・アルバムである。アルバム・タイトルと帯にある通り、“MAGIC TIME=女の子が一番綺麗になる瞬間”を見事に切り取っている。
■ Mewlist×茶太の美しきコンセプト・アルバム
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茶太:mewlist / Cocoon
発売日 : 2008年12月29日
発売元 : kaede.org(同人サークル)

茶太さんの、止まることを知らない活発な音楽活動には恐れ入りまくりである。M3の会場やインタビューでお会いする度に「今年は今までで一番頑張りました!」と言っているのだが、ということは、毎年仕事量の記録が更新されているということなのだろうか?さすがにそれはないと思うが。いや、そうであってもおかしくないな……。
MANYOがarcane名義でリリースしたメジャー作品『Greole』でも痛感したのだが、改めてどの作品でもブレのない歌声を響かせてくれている。まさに安心の茶太ブランド。そんな昨今の茶太さん事情だが、その中でも個人的に出色の出来だと感嘆して聴いたのがこの『Cocoon』だ。
kaede.orgとは、同人ゲーム・サークルらしい。しかし、なぜか発足一発目に音楽CDをリリースしてしまったようだ。そういうの、好きです。コンポーザーはbermei.inazawaとのコラボレーションでもお馴染み、mewlist。彼らしく、繊細かつ多彩な音色を使い分けるシンセワークと、儚さが全編に漂うメロディがたまらない。
また、アメリカではT-PAIN、日本ではPerfumeでお馴染みのボーカル・エフェクト、オートチューンで極端に声をイジり、S.E的なコーラスに使用しているのはかなり新しいと思う。幻想的なサウンドと無機的なコーラスの質感が、美しく神秘的な、異形の世界の扉を開く。このユニット、今後の展開に注目したい。
4. 犬が読むコラム - 責任編集後記的な何か - text: 冨田明宏
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……気付けば、もう朝の10時じゃないですか。
原稿書きはじめたのが昨日の夜11時くらいからだから、11時間もパソコンのキーを叩きまくってしまったわけですね。そりゃ腹も減るわけだ。
さて、『パトス・ハメ』第2号です。テクノウチ氏との対談、いかがだったでしょうか?次号以降ますます想像していなかった方向に話が流れて行くので、まずは今号の対談内容をじっくりと読んでおいて頂けると、2回、3回と楽しめると思います。そしてanNinaインタビューで飛び出したbermei.inazawa氏の『berpop』最新作への意欲も、生温かい目で見守っていきたいと思います(笑)。
そういえば、みなさんは2008年の【ベスト・アルバム】って、もう選びました?
2008年にリリースされた音楽作品の中から【マイ・ベスト】を決めるという楽しいイベントなのですが、私・冨田は音楽雑誌4誌で自分の【2008年ベスト・アルバム】を挙げる機会がありました。この『パトス・ハメ』でも少し紹介しておきます。
改めて自分の考えを詰めていくと、FLEET FOXESの『FLEET FOXES』、TV ON THE RADIOの『DEAR SCIENCE』、FOALSの『Antidotes』、anNina『natal』が、自分の中では揺るがない上位。次点でSound Horizon『Moira』、Late Of The Pear『FANTASY BLACK CHANNEL』、『マクロスF』サントラ『娘フロ』……そしてflipside NAO project!『Rabbit Syndrome』と続きます(笑)。
テクノウチ氏との対談でも触れましたが、今はアルバム単位で大ヒットが生まれにくいので、上に挙げたタイトルをパッと見ても「これは売れたなぁ」と感じる作品は少ない。もしアナタの知らないタイトルばかりでも、私があえて外した選盤をしているわけではなくて、所属している島宇宙が違う、ということなのでしょう。ちなみに私の所属する島宇宙の名前は、言うまでもなく『パトス・ハメ』(笑)。ベストに挙げた作品はどれも本当に素晴らしいので、ぜひmyspaceやアーティスト公式サイトなどで聴いてみてください。
しかし2008年は、ここ数年で最も良盤がザクザク、大豊作な年だったと思う。
間違いなく今、音楽シーンは盛り上がっています。なのに音盤がちっとも売れない!じゃあどうすればよい?その問に対する提言は、次号以降のテクノウチ対談で触れていきたいと思っています。
第3号では、新たなアーティストのインタビュー記事掲載や、冨田以外の誰かによる不定期連載も予定しております(予定は未定)。そして、次こそ隔週ペースを守ります(笑)。
今号に対するご意見・ご感想もお待ちしております!
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音楽ライター冨田明宏
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