冨田明宏 責任編集メールマガジン 『パトス・ハメ』
No.0003-2 / 2009年2月4日 発行

INDEX
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1. THE QEMISTS『JOIN THE Q』ロングインタビュー text: 冨田明宏
2. 対談連載 DJ TECHNORCH×冨田明宏『同人音楽』第2回
3. リレー・コラム『人生を変えたアルバム』      text: 高橋和也
4. 今号のパトス盤 - PICK UP DISC! - text: 冨田明宏
5. 犬が読むコラム - 責任編集後記的な何か - text: 冨田明宏
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2. 対談連載 DJ TECHNORCH×冨田明宏『同人音楽』第2回

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大好評の対談連載「DJ TECHNORCH×冨田明宏〜『同人音楽』〜」第2回をお送りいたします!『DENPA!!!』や『読む音楽』でお馴染み、J-CORE シーンの代名詞 DJ TECHNORCH(以下/テクノウチ)と、『パトス・ハメ』責任編集・冨田明宏があぶり出した音楽聴取の“島宇宙化”に対して、今回提示されるキーワードは“個人と企業の関係”。

対談は再び、思わぬところへと飛び火していく……。今回も音楽業界関係者必読の内容です!

冨田:
前回の対談では、音楽聴取文化は現在、「初音ミク」や「東方」のように、音楽ジャンルではなく共通言語やアレンジャー単位で“島宇宙化”していて、音楽ジャンルを横断してぶった切り、横に掘り進んでいく人たちが増えた。しかも一つの“島宇宙”に所属していると、一人一人の持てる時間の限界からロックやハウス、テクノのように、ジャンルを縦方向に掘り下げていくことができない。よって、消費も含めた個人での音楽活動をするには最高の時代だけど、アーティストのパッケージを売らなくてはいけない商業企業としては、こんなにやりづらい時代はないよなぁ……という話をしました。

今回は、企業が今後果たすべき役割と、音楽業界の未来について話していきたいと思うのですが、その前に。同人音楽の話から離れ過ぎちゃった感じがするので、一度話を戻しましょうか(笑)?

テクノウチ:
そうですね(笑)。今、手元に『虎通』の同人音楽ランキングがあるのですが、上位に来ているのは昔から知名度のあるサークルと、それ以外はほとんどすべて『東方アレンジ』という風になっています。

ただ実際は、音楽サークルってロック系がすごく多いと思うんです。でも、彼らはセールス的な突出した成功をしているわけではなくて、『東方アレンジ』から以下のオリジナルは、ものすごく裾野の広いロングテールを形成しているのだと感じます。だからこんな状況の中で、冨田さんたちはよく『同人音楽を聴こう!』なんて本を纏めようと思ったなぁって(笑)。

冨田:
まあ、無茶でしたよね(苦笑)。ただ、文句が出ることも許容して、無茶を承知で纏めないと、六法全書みたいな本になっていたと思うんですよ。それだと結局、一般の目にまったく届かないものになっちゃうし、そもそもそんな大変なものを誰も書籍になんてしようとは思わない(笑)。悪者になってでも、一度“同人音楽”という文化を基本的な文字にして残しておこうと。

あの本の作り手は、そういう使命感を持っていたと思います。しかもニコニコ動画が本格的にブレイクする直前だったので、あのタイミングで出すしかなかった。また流れが変わってきちゃうところだったので。

テクノウチ:
今、同人音楽系のニュースサイトの運営者の皆さんが、『同人音楽.book』という同人誌を制作されているんですよ。今手元にあるのは先日リリースされたプレビュー版なのですが、内容はレビュー、評論、インタビュー、座談会という風になっていました。

こういう形でデータベース化していく作業は進んでいますね。ニュースサイト運営者の皆さんの何が凄いって、やっぱり音楽ライフの殆どを同人音楽に懸けているところだと思います。でないと、このリリース量にはとてもではないけれど追いつけない。

冨田:
この流れはすごくいいですね。今まではほとんどが口承か、ユーザーたちの記憶にしか残っていなかったものが、書籍としてデータベース化されているわけですから。これは同人音楽が、ひとつ成熟期を迎えたと言っても過言ではないと思います。

テクノウチ:
もう誰かがやらないと、俯瞰出来る限界に近いだったからなのかもしれません。いえ、もしかしたらそんな限界点は既に超えているかもしれませんが…例えばニコニコ動画だけ考えても、ランキングをチェックしているだけでは、スピードが速すぎてとても追いきれない。半年前に流行った曲が、同人の世界ではあっという間にクラシックですから(笑)。

こっちの、『同人誌即売会検索しすてむの分析本』という同人誌もすごいですよ。これは音系だけではないのですが、ジャンル別参加サークル数とか、ジャンル分析、アニメ放送日やドラマCDリリースとの比較推移グラフなどなどを扱っていて……。

冨田:
スゴイ!これは素晴らしい!

テクノウチ:
こうやって見ていくと、いかに元ネタの影響が同人に影響を与えているのか、一目で見てとれるんですね。

冨田:
この本はアニメ業界関係者、アニソン業界関係者全員が買うべきですよ!いや、こっそり買うべきなのかな(苦笑)?だってこれだけで、作品がユーザーに与える影響力の強さが分かってしまうわけだし。ものすごく価値のある資料だ……。

テクノウチ:
『BLEACH』といった人気作品のテレビ放送化、映画化が同人に与えた影響や、TYPE-MOONや Key、leaf のようなメーカーが、どのような推移で同人に影響を与えてきたのか、一目でわかりますからね。これを作った人たちは本当にすごいし、もっと評価されるべきですが、一体誰が得するんだろうかと(笑)。

冨田:
(笑)。でも、その「一体誰が得するんだろう」という概念は、同人においては重要なキーワードですよね。まったくお金にならないのに、情熱で突き動かされているというか。これだけ価値のある本を作っても、決してお金になるわけではないと思うんですよ。それは音楽の方でも言えて、たとえば初音ミクのオリジナル楽曲をニコニコ動画にアップしている人は、普段サラリーマンだったり、フリーターだったり、昼間は他の仕事をしている人がほとんどだと思うんです。これは古い考えなのかもしれませんが、大切な時間を費やして作った作品で、彼らはもっと幸せになれる方法があるのではないか?と思ってしまうのですが、いかがでしょうか?

テクノウチ:
前回の対談で、『DENPA!!!』にメジャー音楽メーカーの方が何人かいらっしゃったという話をしましたが、皆さんそういったアマチュア作家に対して、「企業として何ができるだろうか」という話をしていたんですよ。

ニコニコ動画で活躍している人の中には、オリジナル作品を作るというベクトルではなく、人気のある MAD 動画のようにフレーム単位で動画を組み合わせていって、プロも驚くような作品を作れてしまう人がいるわけですよね。また、メロディを書くセンスはあるけど、リズム作りが苦手だという人もいる。

一方、その逆のパターンもある。更にはその人達が作った曲に対して、絶妙なPV動画が作れる人がいる。また、そういった関連のニュースサイトには、1日2万以上のページ・ビューを稼ぐサイトもザラにあるわけです。でもそれらのうちかなりの部分は、アマチュアである個人個人がやっているわけですよね。僕がメジャー・メーカーの方々に提案したてみたのは、彼らの個性や才能が上手く組み合わせることができるインフラを、企業は今後作っていけるのではないか、ということなんですね。

インフラの整備は、やはり個人ではできない事ですし、デモテープ待ちの期間が終わっているのではないかということも知っている。これからは才能の組み合わせを楽しむような、そういう方向性に向かっていくべきなのではないでしょうか?ニコニコ動画一つとってもとにかく恐ろしく沢山の作品とクリエイターがいるわけですから

冨田:
確かに。今までは、社会的な制度がなかった為にまったくフックアップされてこなかった才能が、今ならさまざまな方向性に活かせるのではないか。これは、すごく前向きな提言ですよね。

テクノウチ:
やはりインフラのレベルにまでいってしまうと、個人ではほぼ不可能ですよね。でも、企業なら直ぐ出来るのかというとそうではないでしょうし、凄く他人行儀な提案になってしまいますが…。

冨田:
明治時代初期に、それまで高尚だった文学が一般大衆に降りてきて純文学に発展した状況と、今の同人音楽を取り巻く状況は、インディーズが起こった時以上に似ている気がします。しかも、そのスピードがものすごく速い。こんなに面白い状況を、楽しまない手はないと。

テクノウチ:
面白い状況ですよね。ただ、単価の問題一つとってもおっかないところだらけです。パッケージ作品の装丁が凄く豪華になりました。そして単価も下がりました。逆にMP3ダウンロードにはジャケットすら無いようなシンプルなモノが沢山現れて、こちらの単価も下がりました。パッケージ販売とダウンロード販売の天秤が凄く傾いているように見えて、実は天秤ごと下がっているのかもしれません。

冨田:
「本気で音楽活動がしたいなら、まずはちゃんとした就職先を探して、足場を固めてからだ!」なんて、まるで笑い話のような実情は少し前から語られていますからね。つまりは、音楽でメシを食う時代じゃなくなってきてしまった、という一般的な認識です。

テクノウチ:
一番象徴的な話ですが、レディオヘッドの「お客さんが自由に値段を付けてくれ」というアルバムがあったじゃないですか?

冨田:
『In Rainbows』ですね。あれは実質的に、最新アルバムの無料配信みたいなものでした。

テクノウチ:
あの売り方が、いろいろな媒体で「革新的だ!」と書かれていた一方で、同時に多くの音楽家が不安を抱いたと思うんですよ。つまり音楽業界の基準値が変わるかもしれないという。

たとえば、美術の勉強をして美大に入っても、最終目標が今や「美大の講師」という人がとても多いですよね。我々外野の感覚からしたら、「あれ?芸術家になるために芸術大学に入ったんじゃないの?」と思ってしまいますが、実際は入学前から「美大の講師」が最終目標で当たり前、という業界の基準値がこうして存在するわけですよね。

パイの問題からダンスとかはもっと顕著だと思います。一人一人の最終目標はダンス・スクールの講師で、しかも講師という存在もアルバイト感覚であって、そもそもダンサーという職業は想定していないかもしれません。

これを音楽に当てはめた時、『音楽家』になるということを考えもしない世界、というのは十分に考えられる状況だと思います。そしてそれを変えるのはレディオヘッドが出したような革新的な作品かもしれなませんし、結果だけ見れば「革新的なのはいいんだけれど、革新的であるが故に音楽家がいなくなりました。」ということにもなるかもしれません。

冨田:
つまりレデイオヘッドのような、世界的にポピュラリティーのあるバンドがそんなことをしてしまったら、それより下に位置するすべてのアーティストの作品が“値段の高い作品”のようになってしまう。「レディオヘッドの新作がタダで手に入るのに、こいつらが金を取るのかよ」と、消費者が判断しかねないと。

まあそれは極端すぎる例ですが、ただ実際に起こっている問題として、音楽の値段が総体的に下がってきてしまった。音楽配信の世界でも、正規の配信よりも違法ダウンロード数の方が余裕で上回っている現状があるわけです。「音楽にお金を払う」という当然の感覚が崩壊してしまう、という危険性は、テクノウチさんの仰るとおり、もっとみんな自覚的になった方がいい。

現実問題として、DTMが発達したおかげで、スタジオ・ミュージシャンは御飯が食べられない職業になりつつある。完全にいなくなることはないのですが、地位は下がり、当然貰える対価も下がってしまう。この変化に対して、我々は何を考えるべきなのか。

テクノウチ:
誰もが無限の可能性を感じているけど、実は終末に向かって行っている可能性もあるということですね。

冨田:
だからこそ、音楽業界に新しいインフラが必要になってきていると。ただ企業の方からすると、アマチュアの才能を入れることが、まず第一の不安なのではないか。つまり、旧体制を維持しなければ、そのシステムの中でご飯を食べてきていた人たちを締め出してしまいかねないと。……あれ、気が付いたら話が雇用問題になっちゃった(苦笑)。でも、「音楽でご飯が食べられるんだ」と思われなければ、業界は活性化しないわけですからね。

テクノウチ:
個人単位で見ると、自由にCDを作ることができて、本まで出せてしまうこの状況はとてもエキサイティングなわけですが、企業からすると全くもってエキサイティングではない(笑)。

10数年前の音楽バブルの時に業界規模が2倍になって、今はまた半分になった。市場規模だけ見るとただ元に戻っただけなのですが、市場規模が倍になっているのに企業形態が元のままというはずもなく、バブルの時と同じ体制でいる企業は小回りが利かなくなってしまった。

冨田:
今から3、4年くらい前、僕がまだ音楽小売業に関わっていた頃は、音楽メーカーにも「まだ一発当てれば何とかなる!」という、バブルの生き残りのような人たちが結構いたんですよ。洋楽のアーティストが新作を発表するタイミングで、海外からアーティストをファーストクラスで呼びつけて、丸の内のカフェバーを貸し切り、小売業者やライター、その他関係者を100人くらい集めて、パーティーとかやっていました。

今思うとなんて前時代的なことをやっていたんだろうと思うのですが(苦笑)。でも、流石に最近は業界再編的なことも起こってきているので、そこまで楽観的に現状を見ている人もいなくなったとは思うんですよ。おじさんたちではなくて、20代30代の若い世代が、音楽メーカーで発言力を持つようになってきた。

「企業が成すべきこと」という提言をこれからもっと発信していって、一緒に盛り上げていかなければならないのかもしれません。あと、企業ひとつが頑張ったところで、何も変わらないわけですからね。

テクノウチ:
本当にそうですよね。ただ、難題だらけですよね…

冨田:
という感じで、第2回はこれでお開きとします。次回はより具体的に、企業と個人が今後何をすべきかについて、掘り下げていきたいと思います。

 

■ HARDCORE TECHNORCH
http://www.technorch.com/

■ 同人誌即売会検索しすてむの分析本
http://www.taiyakiyasan.org/doujinsystem/

■ 同人音楽.book
http://www.doujin-ongaku.org/

 

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音楽ライター冨田明宏
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