冨田明宏 責任編集メールマガジン 『パトス・ハメ』
No.0002-2 / 2009年1月19日 発行
INDEX
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1. anNina 新作 natal を語るインタビュー(前編) text: 冨田明宏
2. 対談連載 DJ TECHNORCH×冨田明宏『同人音楽』第1回 text: 冨田明宏
3. 今号のパトス盤 - PICK UP DISC! - text: 冨田明宏
4. 犬が読むコラム - 責任編集後記的な何か - text: 冨田明宏
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2. 対談連載 DJ TECHNORCH × 冨田明宏 『同人音楽』 第1回
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今都内で最もエッジィなパーティー・イベントとして話題を呼んでいる『DENPA!!!』や、初の著書『読む音楽』も話題となった、J-CORE シーンを代表する DJ【DJ TECHNORCH】(以下/テクノウチ)が、本メルマガ責任編集:冨田明宏とパトスな対談!
今回のテーマは、テクノウチ、冨田の両人が『ユリイカ12月臨時増刊号総特集初音ミク』で別々に言及していた『同人音楽』について。しかし話題はあっちこっちに乱れ飛び、期せずして、音楽聴取の“今”を切り取る対談となりました。音楽業界関係者必読です!
>>> 第1回目 : キーワードは“島宇宙”
冨田:
今日の対談テーマは『同人音楽』について。お題的に、内容が多岐に亘ったカオスな対談になることが予想されますが、あえてそれを良しとしながら進めていきたいなと(笑)。
テクノウチ:
よろしくお願いいたします(笑)。
冨田:
まず最初に話したかったのは、テクノウチさんの著書『読む音楽』の主題のひとつでもあった、パッケージについて。テクノウチさんがやられている『DENPA!!!』というイベントに、メジャー・メーカーの人が結構来ている、というお話しを聞いたとき、彼らは商業作品のパッケージが売れなくなっている現状を打破する為に、マーケティング・リサーチに来たんだと思ったんです。パッケージ消費がまったく止まる気配のない同人音楽に、商業はヒントを見出せるのかどうか、という部分なのですが。
テクノウチ:
ひとつは、メジャーが下がっていて、同人に売り上げの面で近づいてきてしまった、という現状がありますよね。「今は”職業同人”的な存在が増えていて、どうやら売り上げを伸ばしているらしい。それを逃す手はない」という発想で、商業メジャーが同人音楽に注目しているのだと思うんです。
冨田:
同人音楽が盛り上がっている背景には、送り手、受け手を問わず、同人ユーザーは同人市場にしか居場所がないからだと思っているんです。これはネガティヴな意味ではなくて。
もともとゲーム音楽などを愛する文化から生まれ、そこそこに歴史のある市場なので、商業メジャーとは歩んできた歴史に差異がありすぎる。正直、商業が同人を参考にしてパッケージを売るのは、すごく難しいことだと思っていて。
テクノウチ:
僕もそう思います。聴き方、買い方の考え方があまりにも違いすぎる。これはもう、文化の違いですよね。ただ僕も、同人音楽のユーザーがどういう気持ちでCDを買っているのか、模索しながらCDを作っているんですよ。
最近ブログで書いた、【beatport はダンスミュージック界の amazon たり得るのか?】というエントリィがあるのですが、今後は音楽を買いたいと思うと、一方ではダウンロード販売に進んでいくじゃないですか。自分がデジタル DJだからでもあるのですが、CISCO が潰れた時に向かった先は、TECHNIQUE でもDMR でもなく、beatport や JUNO DOWNLOADだったんですね。一瞬でダウンロードできるし、アルバムの中にある余計な曲を落とさないでいいので、コスト的にも助かる。
ただ、アキバ系と言われるような方向性の同人音楽のパッケージ消費は、今後も減らないと思うんですよ。この差が、5年後にはどのくらい進んでいるのか。すごく興味がありますね。最近だと、メジャー・アーティストがショップ限定で 500円 CD を出したり、無料レンタルキャンペーンをやったり、どんどんパッケージの価値を下げていると思うんです。ユーザーも、「聴きたいのは1曲だけなのに、これに 2500円も払うのは馬鹿らしい」と、当然ダウンロードが伸びる。
その人たちを A とすると、一方のBでは、コミケや M3 の帰りに”戦利品”といって、50枚とか、大量の CD パッケージを写真に撮って mixi にアップしたりしている。でも、A は B の行為が理解出来ない。「CD なんかそんなに買って聴けるのか?」と。でも B のパッケージ文化は、装丁が過剰になればなるほど伸びる。
「戦利品」という考えは A にとっては恥ずかしい行為ですが、B にとっては誇らしい行為な訳です。どちらが正しいのではなく、そもそも見ているベクトルが違う。音楽業界の中で、この文化断絶はどこまで行くんだろうという、興味はあります。
冨田:
テクノウチさんが『読む音楽』で書いていた”純粋音楽”という考え方って、実はすごく新しいと思うんです。今まで音楽は、どんな種類の物でも必ずカルチャーとワンセットだった。でも A の人たちのように、気になった音楽を簡単にダウンロードして、データとして所有する行為がどんどん進んでいくと、その音楽に纏わる文化や、そこに辿り着くまでに通過してきたアーカイヴの存在が、どんどん切り落とされていってしまう。
それで果たして、音楽を聴いていて楽しいのかどうか。正しいか正しくないかは別の問題ですが、そこが僕には引っかかっていて。たとえば、テクノウチさんのような J-CORE の DJ の CD は、パッケージ・イラストの特殊性も必要不可欠じゃないですか。
テクノウチ:
そうですね、切り離せないものです。そこは僕も、音楽と文化が完全に切り離されることはないと思っていて。”純粋音楽”は、概念のようなものなんです。音楽を、”純粋音楽”と”音楽以外の音楽”に切り分けることができたら?という考え方ですね。その考え方で、ジャンル議論のディスり合いが少しでもなくなればいいなと思っていて。
確かに、MP3 音源で音楽を所有する方向性に進んでいくと、その音楽に纏わる文化は切り落とされていく。でも、それがまったくなくなるような事は、ないと思っています。ただ、文化が音楽から切り離されれば切り離されるほど、音楽は売れなくなりますよね。
冨田:
ただ僕は、今現在も、”純粋音楽”としての音楽しか聴いていない、つまり纏わる文化をまったく意識せずに音楽を聴いている人たちは、結構いると思っているんですよ。だからこそ、昔ではありえないハイブリッドな音楽が生まれてきているのは事実で、それはそれで面白い。
ただ、それが進行していくことの危うさみたいなもは、肌で感じているんです。テクノウチさんのような DJ と、いわゆるリスナーの関係は本来はすごく近いわけですが、リスナーの意識の変化を、現場ではどのように捉えていますか?
テクノウチ:
いえ、今は DJ とリスナーの乖離も激しいと思うんですよ。たとえば、そのジャンルにメジャーなアーティストが 20人いるかいないかのマニアックなジャンルだと、アンセムは DJ しか知らなくて。クラブでアンセムをかけても「この曲かけてる!すげぇ!」とリアクションするのは DJ だけで、お客さんは知らないんですよ。
冨田:
それじゃアンセムにならないですね(笑)。
テクノウチ:
つまり、あまりにもリスナーの島宇宙ができ過ぎていて、曲のことをわかっているのはDJだけという状況ですよね。別にリスナーがみんな楽曲に執着心が無い訳ではなく、そういったレコードや CD を一生懸命買い集めるような人はもう気がつくとリスナー兼 DJ になっていて、曲やレーベル、アーティストに執着のない人はそのままの状態、つまりわからないまま。その乖離は、狭いジャンルほど目立ちますね。
冨田:
僕は、DJ ってフロアを盛り上げてナンボだと思っているんですよ。よくヒップホップの DJ が自分たちのことを「サービス業」だといいますが、まさにそれですよね。でも、DJ が何をかけようが関係なくなっている、ということなんですか?でもそれだと、プロ DJ の居場所がどんどんなくなっていきませんか?
テクノウチ:
そうでしょうね。「これをかけたいのにかける場所がない!」と、嘆いているDJ をよくみますから。
冨田:
無数に島宇宙が存在して、音楽の聴かれ方も無数にあるし、しかもヘヴィ・リスナーとライト・リスナーの乖離が激しい、という状況ですよね。無茶な質問をしますが、その乖離を埋める方法は、ないのでしょうか?
テクノウチ:
ニコニコ動画、Youtube、beatport、JUNO DOWNLOAD と、今は無数に音楽を発信する場所があるじゃないですか。昔のように、スタジオを借りて、必要最低限の機材を揃える為だけにお金がたくさんかかるような時代ではなくて、リリースされる音源も、1人の人間が追いきれるような量ではないし、ジャンルも無数に存在する。
昔のように、「あの有名 DJ やレコ屋の店長が推してるから買いに行こう」という、限定されているからこそ盛り上がった聴取文化もなくなってきていると思います。
冨田:
確かに。その状況はレコードショップのバイヤーたちから、僕も聞いています。
テクノウチ:
たとえばダブステップにはまったら、その狭いジャンルだけでも追い続けるだけで青春が終わってしまうくらい、情熱がかけられますよね。でもとなりの世界を覗いてみると、もう自分には理解できない音楽が無数に広がっている。一歩外の人たちは、ゴストラッドの存在すら知らないなんてこともある。
初音ミクに限定しても、【初音ミクニュース】を見るだけで「1日でこんなにニュースがあるのか」と驚かされますよね。つまり、今の音楽聴取には島宇宙が数限りなくあり、その島宇宙のひとつを掘り下げるだけでものすごく膨大な時間がかかる。音楽シーン全体を俯瞰することなんて、もはや不可能ですよね。音楽人口が増えているともいえるし、それぞれのシーンは沈没しているともいえるんじゃないでしょうか。
冨田:
それぞれのシーンに人口が分散しているから盛り下がっているようにも見えるけど、実はそうではないのではないか。それはわかります。たとえば『DENPA!!!』は、オタク文化のアンセムを共通言語にして、新しいものや、エッジィなものが好きな人たちも巻き込んでみんなで一緒に盛り上がろう、というイベントですよね?
テクノウチ:
そうですね。
冨田:
その場所においてはアンセムが共通言語だから、アニメやゲームや同人が好きなオタクではなくても、アンセムさえ知っていれば盛り上がることができる。
彼ら彼女らの音楽の聴き方は、ひとつの音楽を縦方向に掘り下げるのではなく、さまざまな音楽ジャンルが縦に並んだ状態を、途中から横断しぶった切っていく、という聴取の仕方なわけですよね。その横断のひとつが『DENPA!!!』であって。
テクノウチ:
その横断の数だけ島宇宙が存在するし、縦に掘り進んでいく人たちと横に掘り進んでいく人たちとは永遠に出会わないかもしれない。たとえば『東方』が好きな人は、『東方アレンジ CD』でロック、ハウス、テクノ、いろいろな音楽と出会いますよね?
そこには『東方アレンジ』という島宇宙が生まれていて、もしその島宇宙に住む人たちがパッケージ、アレンジャー単位で音楽を聴くとしたら、つまり横方向に音楽を掘り下げていくとしたら、一人一人の持てる時間の限界から自然と縦方向に音楽を掘り下げていく時間が出来なくなっていくでしょうし、そもそも縦方向には興味がわかないのではないか、と思います。
しかも、その島宇宙で音楽を追い続けるだけで、5-6年はあっという間です。
そしてそれで十分満足出来るという現状があるといえますよね。
冨田:
昔から、島宇宙のような聴き方をする音楽ユーザーはいたと思うんです。ただそれは、いくつかの音楽ジャンルをある程度まで極めた、ヘヴィ・ユーザーのなれの果てでした。そのヘヴィ・ユーザーが個人で勝手に島宇宙化していて、他が寄りつけないような孤立した存在になっていると。
ただ今の島宇宙は、ライト・ユーザーの集合がメイン。それは恐らく、知りたい情報の一部分だけピックアップできる“ググる”が確立されて以降の音楽聴取文化=島宇宙化、という気がします。
気になったアンセムがあった場合、手に入れるためにアルバム一枚を 3000円出して買わなくたって、“ググって”視聴する、もしくはケータイで1曲ダウンロードすればいいわけで。しかもそのアンセムが島宇宙の共通言語になっていると。
昔は、というか自分がレコード屋でバイヤーをやっていた頃は、「一ジャンル最低 50枚は揃えないとそのジャンルは語れない」とか、「そのアーティストの出しているオリジナル・アルバムすべてを揃えないとファンは名乗れない」とか、「前作との関係性から考えるとこの作品は名盤だ」とか、「パンクから政治性を抜いてしまったらパンクじゃない」とか、コアな音盤文化や、自己のアイデンティティと絡んだ音楽聴取文化が根強くあったし、今も地道にあるけど、それが恐ろしく前時代的なものになってしまった。
それは 90年代後半からすでに肌で感じていた状況ではあったのですが、今は当然、その状況が進行している。つまり島宇宙が無限に増えてしまった。ある意味では、すべての音楽ジャンルがアーカイヴ化されていると言っても良い時代……なのかな。
テクノウチ:
ニコニコ動画というアーキテクチャーの下に『東方』があり、『ニコマス』があり、『初音ミク』がありますよね。いえ、これは極論なのでこれら全てがニコニコ動画の下に存在している訳ではないのですが…とにかく例えばニコニコ動画傘下の島宇宙だけ見てもそれぞれが交わるということがあまりないように見えるんですよ。それぞれの島宇宙の音楽の聴き方はほぼ同じなんだけど、即売会に行ってみるとそれぞれお客さんが全然違うことが多い。
冨田:
ということで最初の話に戻すと、メジャーも含めた今の島宇宙化した音楽聴取文化と、その島宇宙で成り立っている同人音楽の市場を考えた場合、同人ほどメジャーがサンプルにしにくい市場ってないわけですよね(笑)。
テクノウチ:
本当ですね(笑)。同人、つまり個人として音楽活動するにはこんなに素晴らしい状況はないのですが、リスナーが島宇宙化している今、ヒット作品は生まれづらいわけですからね。今商業(メジャー、メジャー・インディーズ)は本当にやりづらいと思うし、大変な時期だと思います。
冨田:
今後、企業が歩むべき方向性は、どのようなものだと考えてらっしゃいますか?
テクノウチ:
たとえばニコニコ動画や、beatport のようなアーキテクチャー・環境を作っていく必要があるのではないかと思います。
冨田:
ニコニコ動画が(ββ)化して、誰でもチャンネルが持てる時代になったというのは、ある意味この島宇宙に対応する企業からのアプローチなわけですよね。さてここからは、企業が今後果たすべき役割と、同人音楽の未来について話していきましょうか。
(第2回につづく)
■ HARDCORE TECHNORCH
http://www.technorch.com/
■ beatportはダンスミュージック界のamazon たり得るのか?
http://www.technorch.com/2009/01/41—beatportamazon.html
■ beatport
https://www.beatport.com/
■ JUNOdownload
http://www.junodownload.com/
■ 初音ミクニュース
http://hatsunemiku.blog107.fc2.com/
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音楽ライター冨田明宏
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